横浜地方裁判所横須賀支部 昭和45年(ヨ)63号 判決 1971年12月14日
申請人
奥住忠広
外六名
申請人代理人
宮代洋一
外七名
被申請人
学校法人湘南女子学園
右代表者
村瀬春一
右代理人
稲木延雄
外二名
主文
申請人等七名が何れも被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。被申請人は申請人等七名に対し昭和四五年四月一日以降本案判決確定に至る迄毎月二〇日限り別紙賃金目録記載の各金員を仮に支払え。
申請費用は被申請人の負担とする。
事実《省略》
理由
一次の各事実は、何れも各当事者間に争いがない。
(一) 学園は、教育基本法、学校教育法に基き設立された学校法人であり、湘南女子高等学校、湘南女子学園幼稚園を設置経営しているものであつて、右高校については、昭和四四年度、教員六二名(但し、事務兼任一名)、事務員六名(但し、教員兼任一名)、用務員二名、警備員一名、その他助手一名を擁していた。
(二) 申請人等は、何れも右学園に雇傭され、右高等学校に於て教員としてその教務に従事して来た。
(三) 学園には、湘南女子学園教職員組合(委員長地崎広)があり、学園の全教員を組織していた。
(四) 学園は、専任教諭である申請人等(但し、申請人野口幸義を除く)に対し、昭和四五年三月二八日、就業規則第三七条五項を適用して解雇の意思表示をした。右就業規則第三七条は、「法人は職員が次の事項の一に該当するときは、退職を命ずる」と記載され、同条五項には、「学園経営上、職制若くは定数に改廃又は予算の縮少等により廃職又は過員を生じたとき」と記載されている。
(五) 学園は、右同日、昭和四三年四月に非常勤講師として採用した申請人野口幸義に対し、昭和四五年四月以降右講師として再採用することを拒否する旨の意思表示を行つた。
(六) 右解雇及び再採用の拒否は、生徒数減少に因る経営難を打開するための人員整理を理由とするものであり、その余剰人員は、教諭一人当り一週二〇時間の持時間数を基準として算出された。
(七) 学園の、昭和三七年度以降に於ける在籍生徒数及び学級数の推移は、概ね別表生徒数推移一覧表の通りである。
(八) 学園は、昭和四〇年度に山中湖畔に寮を建設し、昭和四四年度に六七〇万円をもつて校舎のアルミサッシ取替工事を行い、且つ、昭和四四年度の右解雇及び再採用拒否を行う直前に於て、約四七〇〇万円を投じて体育館建設予定地を購入した。
(九) 学園は、申請人等の入園と就労を拒否し、且つ申請人等に対し昭和四五年四月一日以降の賃金を支払わない。又、学園の賃金支払いは、一日より月末迄の分を当月二〇日に支払うという方法を執つており、申請人等の解雇、再採用拒否時の賃金は、別紙賃金目録記載の通りである。
二よつて、先ず、申請人野口幸義の地位について検討するに、<証拠>を綜合すると、申請人野口は、昭和四三年三月、日本体育大学体育科を卒業し、中学校一級高等学校二級の保健体育科の教員免許状を取得した者であるが、出身大学及び神奈川県教育委員会の推薦を経て、学園の女子高校専任教諭に就任する予定の下に面接に赴いたところ、当時の小泉隆校長より、学園側の都合により一旦講師として採用するが、速やかに専任教諭に任用するから了承して欲しい旨の申出があつたので、之を承諾して同年四月学園の体育科非常勤講師に就任したこと、同申請人は、一年目より一週一三時間の体育を受持つた外、中間試験・期末試験の監督、他の教師が欠勤した場合の補講、体育祭・前夜祭・文化祭の係、遠足・キャンプの付添、職員会議・成績会議への出席、機械体操部の実質的な顧問等を担当し、校務分掌を担当しない点を除いては殆んど専任教諭と同等の職務に従事した上、放課後は勿論のこと、土曜日曜や夏期休暇などにもひたすら生徒の指導に当り、文字通り献身的な努力を重ねて相当の実績を挙げてきたものであり、採用後二年目には何等更新の手続もないまま、当然の如くに時間割に組み入れられてきたこと、及び他の私立高校の例に比較すれば、体育科の教員が一週に一三時間を受持つのは専任教諭として充分なものである許りか、正式の免許状を有する体育科の教員を講師として採用するのは異例に属することが夫々疎明される。そうだとすると、申請人野口は、学園側の一方的都合により給与面のみが非常勤講師で、その職務内容の実態は専任教諭と同等であり、同申請人が専任教諭に匹敵する教育活動を行う反面、学園もまた、或は之を命じ、或いは之を黙認してその労務を受領して来たのであるから、採用後二年を経過した時点に於て尚、同申請人を非常勤講師として取扱うことは、著しく公平の観念に反すると言わねばならない。以上の如く、申請人野口の職務内容の実態は専任教諭に匹敵するものではあるが、それだからといつて、同申請人を専任教諭に任命した行為の認められない本件では、直ちに同申請人の地位が専任教諭に移行したものと認めるのは困難である。然し乍ら、遅くとも学園が再採用拒否の意思表示を行う時点に於て、同申請人の地位は、学園の就業規則第三条第一号に定める常勤講師、若しくは、被申請人代理人提出に係る昭和四五年九月一四日付準備書面二六頁後から四行目の「教諭待遇の常勤講師」、即ち期間の定めのない講師に移行していたものと認めるのが相当である。従つて、学園の行つた再採用拒否の意思表示は、その実質が解雇の意思表示に該当するものであるから、申請人野口は、本件に関する限り、他の申請人等六名と同等の法律上の地位があると言わねばならない。
三そこで次に、本件解雇が、解雇権の濫用若しくは合理性のない解雇として無効である旨の、申請人等の主張について判断する。
(一) 学園の経理状況について
<証拠>を綜合すると、本件に疎明資料として提出された学園作成の計算書類を基礎に、企業会計原則に基いて資金運用表、損益計算書及び貸借対照表の三種の計算書類を作成し直した上、昭和三八年度以降四四年度迄七年間の経理内容に検討を加えると、学園の経理は毎年度所謂黒字である計りか、総額二〇八、〇六九、九九〇円の純益を挙げていること、即ち、各年度の純利益は、
昭和三八年度 三八、九三八、五六九円
昭和三九年度 六五、九四三、八四三円
昭和四〇年度 三六、九三九、三七八円
昭和四一年度 二九、七七七、七一〇円
昭和四二年度 二四、二七八、三二四円
昭和四三年度 七、三六八、二三四円
昭和四四年度 四、八二二、九三二円
合計 二〇八、〇六八、九九〇円
であり、昭和四四年度末に於ける学園の正味財産は、三五〇、八三八、五四一円で、創業時より約三億五〇〇〇万円の増加と算定され、然も、右金額には、学園の所有する不動産の再評価益及び固定資産の減価償却による必要経費を含まないものであるが、学園側の再評価益を加えた計算では、昭和四四年度末の正味財産が六二六、九四三、五〇七円であるから、学園側の計算によると、創業時より昭和四四年度迄の正味財産の増加高は約六億一〇〇〇万円と算定されること、尤も右の純利益は、その大半が、校舎の改築修繕、土地購入、山中湖寮の建設、体育館建設予定地の購入等の設備投資に充てられ、現実に同額の流動資金が残存している訳のものでないことは言う迄もないが、前記の通り、不動産の再評価益及び固定資産の減価償却による必要経費を考慮しなくても、学園には昭和四四年度末に於て三五〇、八三八、五四一円の正味財産が存在することが、一応認められる。右認定に反する疎明は措信しない。
(二) 今後の生徒数増減の予測について
<証拠>を綜合すると、昭和四五年度より三、四年の間は、高校入学希望者が横ばい状態で増加する見込みは薄いが、人口の流動と自然増、人口の年令別構成及び高校進学率の伸張等の要素により、神奈川県下に於ては昭和四九年度頃より高校入学希望者が増加し始め、その数年後に再び過去のベビーブームと同様の急激な増加が予測されることが、一応認められる。右認定に反する疎明は措信しない。
(三) 体育館建設計画について
<証拠>を綜合すると、学園は、本件解雇を行う直前、約四七〇〇万円を投じて学園の隣地に体育館建設予定地を購入した上、爾後二億一六〇〇万円の資金計画を樹立して体育館の建設を計画していること及び学園の村瀬理事長は、昭和四五年四月二〇日付の「先生方にお願い」と題する文書の一節に於て、「(前略)更に又、数千人の卒業生やPTAの皆さんが夢にまで見た体育館の建設も、このままでは来年になつてしまうことも考えられ、場合によつては永遠の夢と消えてしまう恐れもなきにしもあらずであります。私は本学園のイメージアップを計る上からもこの体育館だけは絶体に本年中に完成し、来年度の生徒増に大きな役割を果させたいと願つております(後略)」と訴えていることが、一応認められる。右認定に反する疎明は信用し難い。
(四) 週二〇時間を基準とすることについて
<証拠>を綜合すると、神奈川県下に於ける私立高校の専任教諭の週持時間が、昭和四二年度三二校の調査によれば平均17.1時間であり、昭和四五年度四〇校の調査によれば14.8乃至18.9時間であること、学園の専任教諭一人当りの週持時間平均は、昭和四二年度が19.66時間、昭和四三年度が19.24時間、昭和四四年度が17.97時間であり、学園の組合は従来、之を週一六乃至一八時間に引下げることを学園に要求して来たものであること、及び一般に高等学校教員の職務が、本務の教科担当の外、間接教育活動、校務分掌、特別教育活動、学校事務等多岐に亘り、然もその分量が相当に多量であることから、出来得る限り教員一人当りの週持時間数を減少させ、教員の教育活動特に本務たる教科活動を充実させて教育効果を挙げようとする趨勢にあることが、一応認められる。右認定に反する疎明は信用し難い。
(五) 解雇基準の設定について
<証拠>を綜合すると、学園は、本件解雇を行う前後、申請人等及び組合に対し、解雇基準が、若年者であることと学園の方針に合わないものの二項目であると表明していたが、本件申請事件が提起される直前の昭和四五年七月一五日頃に至り、始めて被申請人主張の、若年であること、経験年数が少なく学園に対する貢献度の少ないこと、独身であること及び勤務評定の好ましくないことの四項目の解雇基準を提示するに至つたことが、一応認められる。右認定に反する疎明は措信しない。従つて、同年三月二〇日開催の理事会に於て、右の解雇基準四項目が設定され、同時に申請人等がその該当者に選定されたとの被申請人の主張は極めて疑わしいものである。換言すれば、学園が、本件解雇を行う当初より、右四項目の解雇基準を設定し、且つ右基準に該当する事実の存在を認識した上で、それを申請人等の解雇に適用したか否かは疑わしいところであると言わねばならない。
(六) よつて進んで、右の疎明された事実に基いて順次検討を加える。
1 先ず、学校法人の会計方法は、従来、学校法人会計の原則に従つて会計の処理が行われ、且つ計算書類が作成されてきたのであるが、経営困難を理由とする人員整理解雇の効力が争われている本件に於ては、人員整理の前提として、学園の企業的側面が検討の対象とされねばならないから、学校法人会計の原則のみでは不充分であり、一般企業会計の原則に基いて学園の経理内容と財産状態が把握されねばならない。而して、前認定の事実によると、学園の経理状況は、企業会計の原則に照してみるとき、昭和三八年度以降本件解雇が行われた昭和四四年度迄の七年間、毎年黒字経営である許りか、合計二〇八、〇六八、九九〇円の純益を挙げており、学園の所有する不動産の再評価益及び固定資産の減価償却による必要経費を含ましめなくて間、昭和四四年度末に於ける学園の正味財産は三五〇、八三八、五四一円で創業時より約三億五〇〇〇万円の増加と計上されるのであるから、学園の右財産状態と、人員整理によつて削減し得る人件費とを比較するとき、にわかに人員整理の必要性を肯定することが出来ない。加えて、学園は生徒数の減少して来た昭和四一年度以降に於ても多額設備投資を行つている上に、今後、昭和四九年頃迄は生徒数の増加を期待し得ないが、その後再び大量の増加が予測され、学園の経営努力如何によつては、従前の水準に復活する可能性が存在するのであるがら、人員整理の必要性は尚更薄いと言わねばならない。仮に、近い将来、生徒数の減少が継続し、学園の経理状況が赤字になる事態が予想されるとしても、それらは専ら学園の経営者の長期計画を誤つたことに起因すると解する外はないので、赤字経営が発生する以前に先制的に教員の人員整理を行うのは妥当でなく、更に、学園が一旦取得した自己の財産には一指だに触れず、その財産取得のために寄与したと推認すべき教員にのみ犠牲を強いるのは、法律上並びに道義上問題であると考えられる。従つて、人員整理の必要性は認められないと解するのを相当とする。
2 次いで重要視すべきは、本件の大量解雇が体育館建設計画と併行して行われた点である。即ち、前認定の通り学園は、本件解雇を行う直前、約四七〇〇万円を投じて体育館建設予定地を購入した上、解雇後に於て約二億一六〇〇万円の資金計画の下に、体育館の建設計画を進めているものである。言う迄もなく、学校教育は、教職員等の人的施設と、校地・校舎・教具等の物的施設とが両両相待つて充実され、それらが一つの綜合体として継続的に運用されてこそ教育の実をあげ得るものと考えられるから、経済的な事由により、人的施設と物的施設の双方を充実させる余力がない場合、その何れを重視すべきかは教育上極めて困難な問題であり、一般に断定し得ないところと解される。然し、学園が、今後の新たな計画として、新規に教員を採用するか、或いは体育館を建設するかの二者択一的な立場に立つているのであれば、そこには私立学校の所謂自主独立性から或程度選択の余地が存在するであろうが、本件の如く、一方で既に学園に採用されていた教員を大量に解雇し乍ら、他方で多額の資金計画の下に体育館の建設計画を進めることは、著しく倫理観念に反し、且つ一般社会通念上許されないと解するのが相当である。そしてその法律上の根拠は、教育基本法第六条第二項の「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は尊重され、その待遇の適正が期せられなければならない」の規定に求められる。即ち、教育基本法は、憲法の教育条項を具体化すると共に、憲法の精神に沿つた教育法の基本原理を定めている法律であり、右条項に言う学校に私立学校が含まれ、同じくその教員に高等学校教諭及び講師が包含されることは明白であるから、私立学校教員の勤務関係が労働契約関係であつても、私学経営者は当然に右の教員の身分尊重義務を負うと解すべく、その具体化は解雇権の制限として現われるものと言わねばならない。従つて、既に学園に教員として採用されていた申請人等の身分は、今後に予定されている体育館建設計画に優先して尊重されるべきであると考える。まして、被申請人の自ら主張する如く、学園が、高等学校設置基準(昭和二三年一月二七日文部省令第一号)附則第二八条の適用を受ける高等学校であれば、同基準第三一条により体育館の設置を義務づけられていないのであるから、体育館建設資金が特別会計であるとか、既に建設予定地を購入しているのでこの時期を逸しては永久に建設し得ないとか、昭和四八年度より高校学習指導要領の改正に伴いクラブ活動が必須になるとか、或いは学園のイメージアップを図る上に必要であるとかの理由は、すべて、本件の大量解雇と体育館建設計画との併行を正当化し得ないと解する。そうだとすると、本件解雇と体育館建設計画とが全く無関係であるとし、若しくは、右両者の併行を当然視していると認めるに外なき本件解雇は、動機の点に於て妥当性を欠くと認定するのが相当である。
3 次に、前認定の通り、本件解雇は、教諭一人当りの週持時間数につき、平均二〇時間を基準として余剰人員を算出しているが、これは、学園に於ける従前の平均持時間数を上廻ることが明らかであるから、労働慣行に反し、且つ労働強化である上に、後記の通り、高等学校設置基準に則つていない点が存するので、機械的作為的に余剰人員を算出したと解する外はなく、人員整理実施の手続に於て妥当性を欠くと言わねばならない。
即ち、学園は自ら、同基準第二八条の適用を受ける高等学校であると主張し、またそのように解釈するのを相当とするところ、同基準第二八条第一、二項、第三〇条第一項によれば、学園の教員の数は、特別の事由なき限り、次の第一号表乙(三)の数式によつて算出された数を下つてはならないとされる。
ところで、右の数式に於ける50の指数は、同基準第七条及び第二九条の各規定と、分子の「生徒数」に対応する分母であることにより、一学級の生徒数を現わすことが明らかであり、又、18の指数は、分子の「週当り授業時数」に対応する分母であることと、数式自体が必要な教員の数を算出するものであることから、教員一人当りの週持時間数を現わすと考える外はないものである。従つて、同基準は、右第一号表乙(三)の適用を受ける高等学校につき、教員一人当りの週持時間数の基準を一応一八時間としているものと解すべく、そしてまた、右の数式によつて算出された教員の数及び同基準第三〇条に言う「教員の数」は、同基準第九条、第一〇条の各規定、並びに、学校教育法第二八条、同施行規則第四八条の二、第六五条、教育職員免許法第二条第一項の各規定に照らし、教諭及び助教諭のみを指し、講師の数を含まない趣旨であると解される。仮に然らずとして、教諭・助教諭に比較し格段に持時間数が少いのを通例とする講師をも含むとすれば、右の数式が殆んど無意味なものに化することは今更多言を要しないところである。被申請人は、同基準第二八条、第三〇条が緩和規定である趣旨から、右の「教員」の中に講師が含まれると主張するが、到底採用し難い。そこで之を、学園の昭和四五年度に適用すると
となり、少くとも四九名の教諭・助教諭を要するところ、同年度は、被申請人の主張によれば教諭が三九名、申請人等の主張によれば教諭が三八名(申請人等を除く)であるから、何れにしても教諭・助教諭が一〇名近く不足していることになる。但し、教諭の外に一一名の講師(申請人等の主張では一二名)が在職するので、同基準に違反するとまで速断し得ないが、とに角、教諭の数が余剰を生じないことが明らかである。以上の如く、週二〇時間を基準として余剰人員を算出したことは、持時間数の点に於て、また教員の必要数の点に於て、同基準に達しない点があると言わねばならない。
尤も、右設置基準は、学校の設置者に示された学校存立の標準であり、右基準に達しない場合は監督庁より学校設置の認可を得られず、また故意に違反すれば監督庁より学校の閉鎖を命ぜられる等の拘束を受けるけれども、直接に私立学校教員の労働契約関係を規律するものではないから、同基準に達しないことは、直ちに本件解雇の効力に影響を与えないが、他の要因と重複すれば、その無効を招来する場合があり得ると解する。
又、解雇基準の設定の仕方とその適用の方法があいまいであること前認定の通りなので、結局本件解雇は、その実施の手続に於て妥当性を欠くと言わねばならない。
4 之を要するに、本件解雇は、その必要性に於いて、またその動機に於て、更にその実施手続に於て、権利行使の範囲を逸脱したものであり、労使間の根本原則である信義則に違反するから、解雇権の濫用としてすべて無効であると解すべく、その結果申請人等は、爾余の争点に対する判断をまつ迄もなく、従前通り学園の教員としての地位を有することになる。
(七) 尚、附言するに、申請人野口の地位が、非常勤講師より常勤講師・教諭待遇の常勤講師に移行したとの認定が困難であると仮定しても、前説示の教員の身分尊重義務に加えで、同申請人の勤務内容の実態、資格、勤務年数、採用時の経緯等を綜合し、再採用の拒否に合理的な理由を必要とすると解すべきところ、些かもその理由を見出し得ないこと前説示の通りである以上、再採用拒否の意思表示は無効と言うべく、従つて、何れにしても同申請人は従前通りの地位を有すると言わねばならない。
四<証拠>を綜合すると、申請人等は、全員が学園より受ける給与を唯一の生計費としている教育勤労者であり、本件解雇に因つて、生活に困窮を来していること及び学園に於ける教育活動の機会を奪われていることが一応認められ、他に之に反する疎明がないので、申請人等に本件仮処分を求める必要性があるというべきである。
五以上の次第であるから、本件申請をすべて正当として認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用した上、主文の通り判決する。
(石垣光雄)
賃金目録、生徒数推移一覧表<省略>